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3.04.2016

クジラをたべたかったネコ/カメクジラネコ作 (捕鯨の話)

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作 : カメクジラネコ
 ツイッター @kamekujiraneko
             商業作家。著書:「クジラたちの海」(評論社)
            「クジラを食べたかったネコ」(野鳥社)、他

            カメクジラネコさんは友達で、反捕鯨と海の自然や生き物を護ろうと、
       絵や物語を通じて訴え続けているアーチストである。彼のアゲンストは数多い。
               ストーリはフィクションだが、人間の愚かさや美しい海と生き物たちを
   優しい絵と言葉で語っている。
                      この物語を世界中の人々と子供達にも読んでもらいたい。

         ケイコ・オールズ

       ⬇︎ 英語版はこちら Click here to Englidh page⬇︎




ざ ざ ~ ん ・ ・ ・
船ふなべりに波なみがぶつかってはくだけちります
船ふねの上うえには 期待きたいに胸むねをおどらせた10人にんばかりの人ひとたちが
身みを乗のりだすようにして 海うみのほうに目めをこらしています
いったいかれらは 一面いちめんの大海原おおうなばらに何なにを探さがしているのでしょう?
じつは この人ひとたちはクジラを見みにきたのです
クジラというのは、そう、海うみに住すんでいて
大おおむかしに栄さかえた恐竜きょうりゅうのように大おおきな動物どうぶつです
そのクジラを見みにきた人ひとたちにまじって
1匹ぴきのネコが ガラス玉だまのような目めをかがやかせていました
ネコくんは船ふねのへさきにじんどって
ほかのだれにも負まけない熱心ねっしんさで 海うみの上うえをじっと見みつめていました
かれも 船ふねに乗のっている人ひとたちと同おなじくクジラを見みにきたのですが
それにはちょっとしたワケがありました..




じつをいうと、ネコくんはクジラを食たべてみたいと思おもっていたのです
かれはもともとお魚さかなには目めがありません
生なまの魚さかな、煮にた魚さかな、焼やいた魚さかな、缶詰かんづめの魚さかな、みんな大好だいすきです
おまけにそうとうの食くいしんぼうときていますから
魚さかなの中なかでいちばん大おおきいと聞きいているクジラのお肉にくを
一度いちどでいいから食たべたいなあと夢見ゆめみていたのです
もしクジラ1頭分とうぶんの肉にくを缶詰かんづめにしたら 百ひゃっコ、千せんコ、いや、もっとかな?
とにかく食たべきれないほどの量りょうになるでしょう
そしたら きっと一年中食いちねんじゅう た べほうだい
ほかのネコたちに分わけてあげることだってできます
人間にんげんの中なかには こうしてクジラを見みて楽たのしむ以外いがいに
クジラの肉にくをおいしい、おいしいといって食たべている人もいますが
ネコたちにはぜんぜん食たべさせてくれません
それなら いっそのこと じかにクジラのいるところまで行いってやろうと
ネコくんは船ふねに乗のりこむことを決心けっしんしたのです
この船ふねは捕鯨船ほげいせんといって、以前いぜんは南氷洋なんぴょうようという
遠とおくて寒さむい氷こおりの海うみまで クジラをとりにいっていたということです
当時とうじ そこにはクジラが数かぞえきれないほどわんさかいたそうですが
どういうわけかクジラをとることができなくなってしまい
いまではクジラ見物けんぶつにいくお客きゃくを乗のせる船ふねになったのです



船ふねのガイドさんが水中すいちゅうマイクを持もってきました
海うみの中なかにたらしてクジラの歌うたを聞きこうというのです
人ひとびとはまわりに集あつまってじっと耳みみをすませました
 《ウォ~~ン フルルウルルル・・・ クルル・・ ウォ~~ンン》
心こころをふるわせる神秘的しんぴてきな歌声うたごえがスピーカーから流ながれでて
船ふねの上うえの人ひとたちはうっとりと聞ききほれました
遠とおくはるかな別世界べっせかいの音楽おんがくのようです
ネコたちの恋こいの歌うたにはかないませんが
それでも こんな美うつくしい歌うたが歌うたえるのなら
味あじのほうもさぞかしおいしかろうと
ネコくんは思おもい浮うかべるだけでよだれが出でてしまいました
歌声うたごえがかなり大おおきかったので たぶん近ちかくにいるにちがいないと
船ふねの上うえにいる全員ぜんいんが身みを乗のりだすようにクジラを探さがしはじめました
双眼鏡そうがんきょうをのぞいたり、手てでひさしを作つくったりして
みんないっしょうけんめいです
クジラの潮吹しおふきを見みつけようとしているのですが
海うみの上うえはかすみがかかっていて
ネコくんにはなかなか潮吹しおふきを見みわけることができません




太陽たいようの光ひかりがギラギラと照てりつけて 鏡かがみのような海うみの表面ひょうめんに反射はんしゃし
針はりのように細ほそくなったネコくんの目めにも痛いたいほどのまぶしさです
塩気しおけをふくんだ風かぜが毛皮けがわをべっとりさせます
ネコくんがしんぼう強づよく海うみの上うえに目めをこらしていたときでした
「あ、吹ふいたぞ!」
ついにさけび声ごえがあがりました
指ゆびのさす方角ほうがくを見みると
黒くろいかたまりが水面すいめんにぽっかりとあらわれ
きりのような潮しおを吹ふき上あげています
クジラは3回潮かいしおを吹ふくと、海うみの中なかにもぐってしまいました
船長せんちょうさんが船ふねのエンジンを止とめます
しばらくするとまた浮うかび上あがってきました
どうやら3頭とうか4頭とうが群むれを作つくっているようです
そのうちの1頭とうが いきなり海うみからのび上あがりました
クジラは全身ぜんしんの半分以上はんぶんいじょうも海うみの中なかからとびだして
体からだをひねるようにかたむけると 水面すいめんにたたきつけました
“ ド ド ー ン ”
水柱みずばしらが高々たかだかと上あがり、船ふねの上うえにまで音おとがとどきます
クジラたちは次々つぎつぎと競きそいあうように 宙ちゅうにおどりあがりました
見物客けんぶつきゃくは歓声かんせいをあげ、こどもみたいにはしゃいでいます



ふたたびエンジンがかかり、追跡ついせきがはじまりました
船ふねはほとんど飛とびはねるようにしながら 海うみの上をつき進すすみました
口くちをしっかり閉とじていないと 大事だいじな舌したをかみそうです
こちらの動うごきに気きづいたのか、クジラたちも場所ばしょを移うつりはじめました
ジャンプをしながらどんどん遠とおざかっています
そのとき、横合よこあいから大おおきな波なみが押おしよせ
船ふなべりをこえて ネコくんにおそいかかりました
あっというまもなく ネコくんは波なみにさらわれて
水みずの中なかにジャボンと落おっこちてしまいました
さあ、たいへんです
次つぎの瞬間しゅんかん、ネコくんは上うえも下したもわきたつような泡あわに囲かこまれていました
ゴーゴーとそうぞうしい音おとであたりはいっぱいです
耳みみや鼻はなからしょっぱい水みずが入はいりこんできます
「たすけて、おぼれちゃう!」
声こえをあげようとしたネコくんは、海水かいすいを吸すいこんでむせかえりました
4本ほんの足あしをバタバタさせて ひっしに空気くうきをもとめますが
こわさと息苦いきぐるしさとで、胸むねがしめつけられます
ネコくんはしだいに気きが遠とおくなってきました
もがくのをやめると あたりは静しずまり、青一色あおいっしょくになっていきました
ネコくんは 自分じぶんもまっ青さおにそまっていくように感かんじました..



ネコくんは青あおい海うみの中なかをただよっていました
ふしぎなことに、さきほどまでの息苦いきぐるしさはまったくありません
手足てあしを動うごかそうとしましたが 手足てあしはなく
かわりに魚さかなのようなヒレがついていました
でも、水みずの中なかではこのほうが便利べんりです
ネコくんは自分じぶんが生うまれたときからずっと
この青あおい世界せかいになじんでいたような気きになりました
4本ほんの足あしで地面じめんの上うえを歩あるいていたなんて まるでウソみたいです
ここは平和へいわですごしやすい世界せかいでした
太陽たいようは空そらにかかった円盤えんばんではなく、ユラユラうごめく光ひかりの万華鏡まんげきょうです
ネコくんはとても満ち足み たりた幸しあわせな気分きぶんでした
ふいに 頭あたまの上に暗くらいかげがさしました
上うえから水音みずおととともに黒くろいものがとびこんできて
かれのまわりにひろがりました
それは魚さかなをとる網あみでした
かれの体からだはその網あみにからみとられ、身動みうごきがとれなくなりました
もがけばもがくほど 網あみはまきついて体からだに食くいこみます
ネコくんはそのままズルズルと引ひき上あげられながら
ひっしになってさけびました
「たすけて、おぼれちゃう───」


うっすらと目めを開ひらくと、太陽たいようが正面しょうめんでかがやいていました
ネコくんは空気くうきの中なかにいましたが、どうやらちゃんと息いきが吸すえるようです
心臓しんぞうもたしかに動うごいています
かれはまだくらくらする頭あたまを起おこして、あたりを見みまわしました
どちらを向むいても青あおい海うみがはてしなくつづいています
ネコくんはやっと 自分じぶんがどうしてここにいるのかを思おもいだしました
そうだ、ぼくはクジラを見みにきて、船ふねから落おっこちちゃったんだっけ
どこかのはなれ小島こじまにでも流ながれついたのでしょうか?
それにしてはどうも様子ようすがへんです
かれの下したの黒くろくてなめらかな地面じめんは なんだか上下じょうげにゆれているのです
“ ブ シ ュ ー ッ ”
突然とつぜん、近ちかくにネコくんの体からだがすっぽり入はいれそうな2つの穴あなが開ひらいて
そこから白しろい水みずけむりが噴水ふんすいのように吹ふき上あがりました
生なまぐさいにおいがたちこめ、ネコくんの鼻はなをつきます
ほんのつかのま、空そらにちっちゃな虹にじがかかりました
「やあ、お目めざめかい?」
声こえはネコくんの四方しほうから聞きこえてきたようでした
かれはキョロキョロとあたりを見みまわしましたが、だれの姿すがたも見みえません
「ここだよ、ここ。きみの足あしの下したさ」
ネコくんはおそるおそる海うみのそばにはいよりました



「わっ!」
大おおきな目玉めだまが 海うみの中なかからこちらを上目うわめづかいに見みつめています
そうです、かれはなんとクジラの背中せなかの上うえに乗のっていたのです
船ふねからではどのくらいの大おおきさか見当けんとうがつきませんでしたが
いざこうして上うえに乗のってみると、なんというとてつもない大おおきさでしょう
「うひゃあ、これじゃ缶詰かんづめ千せんコでも足たりないや!」
うっかり口くちにしてから、ネコくんはしまったと思おもってあわてて口くちをつぐみました
自分じぶんのようにちっぽけなネコなど
クジラさんはきっとひとのみにしてしまうにちがいありません
はずかしさをまぎらすために
かれはしょっぱいのもかまわず 背中せなかをせっせとなめました
クジラさんが笑わらって体からだをゆすったため、足あしの下したがゆれ動うごきました
「あのぉ、あなたがぼくをたすけてくれたんですか?」
ネコくんはこわごわとクジラさんにたずねました
「ぼくは何なにもしちゃいないよ
 きみが波間なみまをただよってきたので、ひょいと背中せなかに乗のっけたまでさ
 残念ざんねんながら、いまのぼくにはきみをたすける力ちからはなくてね
 きみの運うんがよかったんだ
 たぶん ネコの神かみさまが守まもってくれたんだろう」
そういえば、クジラさんの声こえにはなんだか元気げんきがないようです




「どこかぐあいでも悪わるいんですか?」
「網あみにからまってしまって動うごけないんだ」
ネコくんはクジラさんの鼻はなすじを伝つたいながら
コブのある頭あたまのいちばん前まえのほうへ歩あるいていきました
見みると、たしかにところどころやぶれかけた網あみが
頭あたまの先さきから胸むなビレにかけて びっしりとからみついています
「なんとかぬけだそうとしたんだがね
 よけいがんじがらめになって身動みうごきもできなくなってしまった
 ヒレは傷きずつくし、泳およぐ力ちからもない
 こうして波間なみまをただようにまかせて もう10日とおかほどになる」
「10日とおかも!? その間食あいだたべものはどうしたんですか?」
「ぼくらは夏なつの間あいだにたくさん食たべて体からだの中なかにたくわえるんでね
 いまは食たべなくても平気へいきなんだ」
とにかく命いのちをすくってもらったことですし
ネコくんはなんとかしてクジラさんを自由じゆうにしてあげたいと思おもいました
そこで 網あみをかみちぎろうとして口くちにくわえて引ひっぱりました
牙きばのするどさには自信じしんのあるネコくんでしたが
この網あみはどうしてもかみ切きることができず
しまいにはとうとう歯はぐきが痛いたくなってしまいました
「むりだよ、人間にんげんが作つくった網あみは ぼくらの力ちからじゃどうにもならない」




クジラさんをたすけるのをあきらめてすることがなくなり
どこまでもうねる波なみばかりながめているのにもあきてきたネコくんは
たいくつになってクジラさんにたずねました
「ねえ、クジラさんはいつも海うみの中なかでどんなふうに暮くらしているんだい?
 陸りくには山やまや川かわや森もりがあって、いろんな生いきものも住すんでいるけど」
「ハハ、ぼくは海うみから出でたことはないから陸りくのことはよく知しらないが
 海うみの中なかだって陸りくの上うえに負まけないくらいおもしろいと思おもうね
 たとえば、海うみには川かわはないけれど 海流かいりゅうといって
 温あたたかい水みずや冷つめたい水みずを運はこぶ流ながれが決きまったところを通とおっている
 それから、木きの森もりや林はやしのかわりにサンゴの森もりや海藻かいそうの林はやしがある
 そこにはとてもたくさんの生いきものが住すんでいるよ
 スイスイと泳およぐもの、プカプカと浮うかぶもの
 海うみの底そこをノソノソとはうもの、じっとしてぜんぜん動うごかないもの
 ぼくのように大おおきいのから 目めに見みえないほど小ちいさいの
 美うつくしいかざりやもようのついたもの、毒どくを持もつもの
 おおぜい群むれて暮くらすもの、ひとりでいたがるもの
 どうもうなもの、いつも逃にげまわっているもの・・・というぐあいにね
 それから、海うみの中なかはさまざまな音おとで満みちている
 ぼくらクジラは声こえで仲間なかまどうしの連絡れんらくをとりあっているんだ」
なるほど、いったんもぐれば海うみはおもしろい素顔すがおを見みせてくれるようです
でも、ネコくんはさっきみたいなぬれネズミになるのはごめんだと思おもいました



「ぼくらクジラの仲間なかまは
 毎年まいねん 季節きせつがくると 北きたの海うみと南みなみの海うみの間あいだを旅たびするんだ
 ちょうど渡わたり鳥どりが海うみの上うえを大陸たいりくから大陸たいりくへと渡わたっていくようにね
 夏なつの北きたの海うみには 小ちいさな魚さかなやエビの仲間なかまがたくさん集あつまってくる
 それを食たべるために ぼくらははるばる北きたへ行いく
 そして 冬ふゆがおとずれると
 暖あたたかい南みなみの海うみへ移動いどうして こどもを生うみ育そだてるんだ」
クジラさんはむかしを思おもいだしながら
ひとことひとことかみしめるようにネコくんに話はなして聞きかせました
「たまにははみだしものがいて
 決きめられたコースをはずれてよその海うみをたずねたりもする
 ぼくもこんなふうにならなけりゃ
 まだ一度いちども見みたことのない海うみへ行いきたかったんだけど…」
そういってクジラさんは 少すこし悲かなしそうな顔かおをしましたが
気きをとりなおして先さきをつづけました
「ぼくらの一族いちぞくは岸辺きしべに近ちかいところを泳およいでいくんだ
 ときどきのび上あがって陸りくの地形ちけいを見みて覚おぼえておくと
 帰かえり道みちのときに便利べんりなんでね」




「おや、おもしろい生いきものがやってきたよ」
ネコくんが海うみの上うえに目めをやりますと
大おおきな胸むなビレをつばさのようにひろげた魚さかなが
波なみのいただきからいただきへと次々つぎつぎに飛とびだしては消きえていきます
「魚さかなが飛とんでるっ!」
「あれはトビウオというんだよ」
「へえ、魚さかなのくせに鳥とりのまねをするのがいるなんて知しらなかったなあ」
「まあ、ぼくらだってけもののくせに年中泳ねんじゅうおよいでいるんだから
 大おおきなことはいえないがね」
「ええ~~っ、クジラさんは魚さかなじゃなくてけものの仲間なかまだったんですか!?」
クジラさんのことばにネコくんはびっくりしました
そういえば、さっきから10分ぷんおきくらいに吹ふいている潮しおは クジラさんの息いきで
2つの大おおきな穴あなは鼻はなだったのです
てっきりクジラさんのことを 大おおきな魚さかなだと信しんじこんでいたネコくんは
またもやはずかしい思おもいをして 毛皮けがわの中に顔かおをうずめました
「きみたちの遠とおいしんせきにあたるぼくらのご先祖せんぞは
 ずっとずっとむかしに陸りくをはなれて海うみの中なかで暮くらすことに決きめたんだ
 よっぽど魚さかなが好物こうぶつだったんだねぇ、ハハハ」
意外いがいに近ちかい間柄あいだがらだと聞きいて
ネコくんはもっとクジラさんのことを知しりたくなりました
おたがいお魚好さかなずきということもありますし..



「クジラさんは歌うたを歌うたったり、ジャンプをしたりするクジラの仲間なかまですか?」
「ああ、そうだよ
 “いちばんの歌うたい手てでジャンプの名手めいしゅ”のクジラさ
 人間にんげんたちはザトウクジラと呼よんでいるようだが」
「クジラさんはどうしてそんな重おもたそうな体からだで
 海うみの上うえを飛とびはねるんですか?」
ネコくんは クジラさんのジャンプをその目めで見みたときから
ふしぎに思おもっていたのです
島しまほどもありそうな体からだを、あんなに高たかく水中すいちゅうから持もち上あげるなんて
よっぽど骨ほねの折おれることではないでしょうか?
「音おとで仲間なかまに合図あいずを送おくったりするのにも使つかうんだけど
 まあとにかく、空そらに向むかってぐうんと背せのびして
 水みずに体からだをたたきつけるのは、とっても気持きもちがいいもんだよ
 仲間なかまの中なかでだれがいちばん高たかくジャンプできるか
 何回なんかいつづけて飛とべるか競争きょうそうするんだ
 あの最高さいこうの気分きぶんは、ちょっときみたちにはわからないかなあ」
あれが遊あそびだなんて!
ネコくんが虫むしを追おいかけたり
草くさの葉はにじゃれついたりするのとはわけがちがいます
やっぱりクジラさんは何なにをするのもスケールがでっかいようです




「よくぼくらのジャンプや歌うたのことを知しっていたね」
「さっきクジラさんを見みにきた人ひとたちといっしょに
 船ふねの上うえから見物けんぶつしていたんです」
「そうか・・・・」
人間にんげんといっしょだったと聞きいて、クジラさんの顔かおがくもりました
声こえの調子ちょうしでそれに気きづいたネコくんは
いそいでクジラさんの歌うたをほめあげました
「そうそう、歌うたも聞ききましたよ
 とってもすてきな声こえですね、ぼく感動かんどうしちゃった」
感動かんどうしたのはほんとうでしたが
ネコくんのおせじにクジラさんはまんざらでもないようです
「ありがとう
 ぼくらの歌うたはどういうときに歌うたうかによって
 いろいろなメロディーがあるんだ
 ライバルとのけっとうでの前口上まえこうじょうとか
 恋こいするメスにささげるセレナーデ
 魚さかなをとりに出でかけるときに大漁たいりょうを祈いのる歌うたとかね
 戦たたかいや愛あいの歌うたの場合ばあいは、歌うたがうまいほうが有利ゆうりなんだよ」
歌うたでけんかの勝かち負まけや 恋こいの相手あいてを決きめるなんて
クジラさんたちってなかなかユニークだなあ
ネコくんはすっかり感心かんしんしました




「漁りょうに出でかけるといったけど
 クジラさんたちはどうやって魚さかなをとるんですか?」
「網あみを使つかうのさ」
「網あみ? 網あみってこの網あみのこと?」
ネコくんはクジラさんの頭あたまにからみついている網あみをさしました
クジラさんの手てはヒレの形かたちになっていて
とてもこんな網あみを作つくれるほど器用きようには見みえません
「ぼくらはこんなあぶないものは使つかわないよ
 ぼくらの網あみは、クジラの神かみさまからさずかった天然てんねんの網あみさ
 まず、魚さかなの群むれを見みつける
 ぼくらがご飯はんにしているのは、ニシンとかイワシとかの小魚こざかなだけどね
 そしたら、下したにもぐって鼻はなから息いきをはき出だすんだ
 すると、ブクブクと泡あわがたちのぼって空気くうきでできた網あみになる
 魚さかなの群むれの下したを 円えんをえがくように泳およぎながら
 その泡あわの網あみで魚さかなを囲かこんじゃうんだ
 魚さかなたちが泡あわにおどろいて集あつまったところを、ガブッとひとのみさ」
へえ、クジラさんはずいぶん便利べんりな道具どうぐを持もっているなあ
聞きいているうちに、ネコくんはだんだんお魚さかなが食たべたくなってきました
“ グ ~ ”
「アハハハ、ネコくんは想像力そうぞうりょくがあるねえ」




「お話はなしを聞きいていたらお腹なかがペコペコになっちゃった」
船ふねに乗のる前まえにきちんと食たべておけばよかったと ネコくんはくやみましたが
いまとなっては後あとの祭まつりです
海うみの上うえには食たべられそうなものもないし
さっきのトビウオでもつかまえておけばよかったのですが
「どれ、ちょっと海うみの中なかをのぞいてごらん」
一度いちど落おっこちてひどい目めにあったので
できれば見みたくもなかったのですが
クジラさんがせっかく胸むなビレを持もち上あげてくれたので
上うえに乗のっかって水面すいめんをのぞきました
するとどうでしょう
こんな海うみのまん中なかなのに、大小だいしょうさまざまな魚さかなが
ネコくんの目めの前まえで身みをひるがえしていくではありませんか
「魚さかなたちはぼくみたいな大おおきいのにくっつきたがるんだ
 流木りゅうぼくなんかにもよく集あつまっているよ
 そのほうが敵てきから身みを守まもりやすいからね
 ぼくたち生いきものはけっして食たべる、食たべられるだけの関係かんけいじゃないのさ」




お魚さかなはもう手ての届とどきそうなところをツイと横切よこぎっていきます
ネコくんはのどから手てが出でるほど魚さかながほしかったのですが
いかんせん とる方法ほうほうがありません
「ネコの神かみさまに聞きいてみたまえ」
クジラさんにそういわれて、ネコくんはじっと頭あたまをはたらかせました
しばらくしてから、突然とつぜんアイディアがパッとひらめきました
「よし、クジラさんが網あみならぼくは釣つりでいくぞ!」
ネコくんはヒレのふちぎりぎりのところに立たって
海うみのほうへおしりを向むけると、しっぽを水面すいめんにたらしました
ネコのお母かあさんがこどもをじゃらすときのやり方かたで
しっぽの先さきをピクッピクッと動うごかし
魚さかながえさだと思おもいこむように見みせかけます
いままでこんなふうにえものをとったことはありませんでしたが
ものはためしです
まもなく、びんかんなしっぽの先さきに魚さかながパクッと食くいつく手てごたえがありました
ネコくんがすかさずしっぽをふり上あげますと
中なかくらいのお魚さかなが1匹ぴきぶら下さがっていました
きょうのおかずにはこれで十分じゅうぶんです
「やったあ!」
「おみごと、ネコくん」




ものを食たべられないクジラさんの上うえで自分じぶんだけごちそうにあずかるのは
ネコくんはなんとなく悪わるい気きがしましたが
クジラさんがえんりょはいらないというので
ありがたくちょうだいすることにしました
「クジラさんはどうしてちっちゃな魚さかなしか食たべないんですか?
 そんなに大おおきな口くちなら
 ぼくよりもっとでっかい魚さかなでも食たべられそうなのに」
お腹なかがいっぱいになったネコくんは、またクジラさんに質問しつもんしました
「ぼくらの口くちの中にはえているヒゲはね
 ちょうど海水かいすいから小魚こざかなをこしとって食たべるのにつごうよくできているんだ
 クジラの神かみさまがそういうふうに決きめたのさ」
ネコくんはときどきマグロやカツオの缶詰かんづめを食たべます
それなのに、クジラさんはまわりに魚さかながいっぱい泳およいでいても
夏なつ以外いがいの季節きせつは見向みむきもせず
大おおきな図体ずうたいに似合にあわない小ちいさな魚さかなやエビばかり食たべているなんてふしぎです
「・・・ぼくが人間にんげんの船ふねにいたといったら
 クジラさんはおもしろくなさそうだったけど
 やっぱり人間にんげんはきらいですか?」
「うーん・・・」
クジラさんはむずかしそうな顔かおをしてうなってしまいました



クジラさんが網あみにからまって動うごけないでいることも
かれが人間にんげんをこころよく思おもわない理由りゆうのひとつかもしれません
しかし、なんといっても 人間にんげんはクジラの敵てきでもあるのです
こんなに大おおきくて 歌うたったり飛とんだりいろんなことができる
物知ものしりのクジラさんでさえ
人間にんげんにはとてもかないません
「でもね、食たべられることがいやだというんじゃないよ
 ぼくらだって、小ちいさいうちや年としをとったり病気びょうきになったりすると
 サメやシャチにねらわれるからね
 シャチというのはぼくらのしんせきで
 “どうもうでかしこい海うみのかりうど”のクジラと呼よばれている
 体からだはぼくらより小ちいさいけど
 仲間なかまどうしで協力きょうりょくして狩かりをして、えものを分わけあうんだ
 かれらはおそれられているけれど、尊敬そんけいされてもいる
 ぼくらをみんなほろぼしてしまうようなことはしないからね」
「ふうん、海うみの王おうさまみたいなクジラさんにも苦手にがてな敵てきがいるんだ」
「ぼくらは別べつに、ぼくらが食たべている魚さかなたちよりちっともえらくはないよ
 どれか1種類しゅるいだけが栄さかえすぎて、みんなが迷惑めいわくすることのないように
 神かみさまはとりはからっているからね
 たとえば、ぼくらはたしかに敵てきが少すくなないけど
 そのかわり生うまれるこどもの数かずもとても少すくなない」



「ぼくらはみんな自分じぶんの身みにそなわった道具どうぐを使つかって
 親おやに教おそわったり、生うまれつき知しっている方法ほうほうでえものをとる
 えものをとるのも、住すみかを探さがすのも、身みを守まもるのも全部自前ぜんぶじまえさ
 シャチだって、するどい歯はと持もち前まえのスピードで狩かりをする
 天てんからさずかった自分じぶんの力ちからをわきまえているんだ
 ところが人間にんげんは、ぼくらのような大おおきな動物どうぶつをかんたんにつかまえられる
 この網あみや船ふねのような道具どうぐを使つかってね
 こういう網あみは、ちぎれて流ながされたり、漁師りょうしが捨すてたりしたものだ
 網あみがあんまり細ほそくて見みえにくいものだから
 ぼくは泳およいでいるうちに うっかり頭あたまをつっこんでしまった
 ぼくらの網あみは空気くうきの網あみですぐに消きえてしまうけど
 人間にんげんが作った網あみは どうしたわけか自然しぜんの力ちからでくさったりこわれたりしない
 おばけみたいにさまよいながら 生いきものたちを殺ころすおそろしいわなになる
 ぼくらクジラやイルカの仲間なかま以外いがいにも
 多おおくの魚さかなたち、海鳥うみどりやウミガメ、アザラシたちがこのわなにはまってしまう
 ぼくぐらいの年としならまだしも、こどもたちのことを思おもうと胸むねが痛いたむよ
 しょっちゅう息いきを吸すいに海面かいめんに上あがるから 網あみにかかりやすいし
 体力たいりょくがないからすぐに弱よわってしまう」
そういったクジラさんの目めはとても悲かなしそうでした..




「どうして人間にんげんの道具どうぐはぼくらのとちがうんだろう・・?」
「さあ、よくわからないが、自然しぜんにはない力ちからを使つかっているようだ
 ずっと南みなみにクジラがたくさん住すんでいる氷こおりの海うみがあるんだが──」
「あ、それ 南氷洋なんぴょうようっていうんでしょ?」
「そうそう、よく知しっているね
 ぼくらはそこで長ながい間あいだ平和へいわにすごしてきたんだけど
 ある年としから突然とつぜん大きな船ふねがやってきて
 えたいの知しれない方法ほうほうでぼくらクジラをさらっていくようになった
 やがて、ぼくら“歌うたい手て”の一族いちぞくやほかの大おおきなクジラたちは
 仲間なかまをおおぜい殺ころされて ゆたかな氷こおりの海うみから姿すがたを消けしていった
 いまじゃ“いちばんのチビですばしこいクジラ”が
 みんなにかわって海うみのおつとめをはたすのにてんてこまいさ
 というのも、皮肉ひにくなことにかれらは体からだが小ちいさくて肉にくが少すくなかったから
 大おおきいクジラがすっかりいなくなるまで見向みむきもされなかったんだ
 チビといったって ぼくよりふたまわりほど小ちいさいだけなんだけどね
 でも、そのチビクジラがいま人間にんげんにねらわれている
 かれらの身みにもしものことがあったら クジラの楽園らくえんもおしまいだよ
 そこにはペンギンやオットセイやほかにもいろんな生いきものがいて
 海うみの神かみさまがそれぞれの役目やくめをわりふっているから
 クジラの役やくがだれもいなくなっちゃうと 神かみさまもきっと大弱おおよわりだろう」



これでネコくんにも、町まちでクジラの肉にくが売うられているのを
見みかけなくなったわけがわかりました
「人間にんげんたちはもちろん
 自分じぶんでそんな遠とおくまで泳およいでいくことはできないから
 石油せきゆという“燃もえる水”で船ふねを動うごかすらしい
 それは大おおむかしの生いきもののしかばねが海うみの底そこにつもって
 気きの遠とおくなるような年月ねんげつをかけてできたものなんだがね
 人間にんげんはそれを地面じめんの下したからどんどんくみ出だしている
 どんな使つかい道みちがあるのか知しらないけれど
 船ふねだけじゃなくて陸りくの上うえでもたくさん使つかっているんだろう
 ところが、その石油せきゆを運はこぶためのタンカーという大おおきな船ふねが
 あちこちの海うみで事故じこを起おこしてそいつをこぼしている
 これがまた迷惑千万めいわくせんばんなんだ
 なにしろ、ぼくらはヒゲがねばついてえさがとれないし
 海鳥うみどりたちも羽はねがベタベタになって飛とべなくなるし
 羽はづくろいをすれば、今度こんどは石油せきゆをのみこんでお腹なかをこわして死しんでしまう
 アザラシやラッコは毛皮けがわがだいなしになってこごえてしまうし
 魚さかなたちも息いきができなくなって水底みずそこにおおぜい身みを横よこたえる
 魚さかながいなくなっちゃったら それを食たべているたくさんの動物どうぶつが困こまるわけだ」



「それから河口かわぐちや岸辺きしべに近ちかづくと、やたらにへんなものが流ながれてくるね
 よく白しろくてフワフワしたものが海面かいめんに浮うかんでいるんだが
 ウミガメとかがクラゲとまちがえて食たべちゃって ひどい目めにあっているよ」
それを聞きいて、ネコくんはハッと思おもいあたりました
あれ? それってもしかすると
家いえの人がスーパーへ買物かいものに行いってもらってくるビニール袋ぶくろのことかしら・・・
「そもそも海うみの水自体みずじたい、人間にんげんの流ながす毒水どくみずのせいでおかしくなっている
 かれらが作つくりだす毒どくは 生いきものの体からだの中なかにたまりやすい
 小ちいさな小ちいさな生いきものを それより少すこし大おおきな生いきものが食たべ
 それをもっと大おおきな生いきものが食たべ・・・とくりかえすうちに
 どんどん毒どくがたまって強つよくなっていくんだ
 だから、ぼくらみたいに魚さかなを食たべている大おおきな動物どうぶつはいちばん困こまる
 おまけに、そうした毒どくはなかなか消きえずに
 こどもやまごたちの体からだまでむしばんでいく
 近ちかごろ わけのわからない病気びょうきにかかる仲間なかまが多おおいのはそのせいかな
 ぼくを食たべるときはお腹なかはやめておいたほうが安全あんぜんだよ、ハハ」
もう、クジラさんたらいじわるなんだから
でも、笑わらいごとではありません
まじめな顔かおにもどってクジラさんはいいました
「人間にんげんたちはまるで海うみをゴミ捨すて場ばだとでも考かんがえているみたいだね・・・」



ネコくんはすっかり考かんがえこんでしまいました
ネコくんにとっての人間にんげんとは
暖あたたかくていこごちのよいおうちや
おいしいご飯はんをくれる便利べんりな存在そんざいでした
もちろん、人間にんげんにたよらずに生いきていくこともできますが
それには苦労くろうしてえものを探さがさなくてはいけないし
いつもお腹なかいっぱい食たべられるともかぎりません
雨風あめかぜや寒さむさにたえなくてはならず、楽らくちんな暮くらしはのぞめません
人間にんげんがネコくんとちがうのは
そういう快適かいてきな生活せいかつを自分じぶんたちで手てに入いれた点てんです
自然しぜんの姿すがたを思おもいのままに作つくりかえ、大おおきな町まちを作つくり
いろいろな機械きかいや乗のりものを発明はつめいしました
たしかに、海うみの王者おうじゃでありながら
ちっともいばったりしないクジラさんとはちがって
王おうさま気きどりのところはありますけど
そのかしこい人間にんげんたちが、どうして海うみの生いきものたちに対たいして
そんなひどいことをするのか
ネコくんにはさっぱりわかりません
クジラさんも理由りゆうをはかりかねている様子ようすです..




「自分じぶんたちだって とりすぎたり海うみをよごしたりして
 魚さかながいなくなっちゃうと困こまると思おもうんだけどねぇ・・
 ぼくらや魚さかなを食たべつくしても足たりないほど人間にんげんは多おおいのかな?」
なるほど、陸りくの上うえでは山やまがけずられ、森もりや林はやしもきりはらわれて
家いえやビルがどんどん建たちならんでいきます
人間にんげんの数かずがあまりにふえすぎたせいなのでしょうか?
それにしても、陸りくでも海うみでも人間にんげんのふるまいは少々目しょうしょうめにあまるようです
「やっぱりほかの生いきもののことにももう少すこし気きを配くばってほしいよね
 北きたと南みなみの海うみを行き来い きする旅たびのと中ちゅうで海岸かいがんに目めをやると
 年としごとに様子ようすが変かわっていくのがわかるんだ
 干潟ひがたも磯浜いそはまも埋立うめたてられて、きれいな海うみはどんどんせばまっていく
 岸きしの近ちかくは魚さかなや小ちいさな生いきものが卵たまごやこどもの時期じきをすごす場所ばしょだから
 沖おきの生いきものにとってもすごく大事だいじなところなんだ
 ぼくらだって子育こそだてに使つかっていたんだけど
 だんだん追おいたてられて行いくあてがなくなってきた
 海うみと陸りくとは切きっても切きれない縁えんにあるんだよ
 そもそも地球ちきゅうでいちばん最初さいしょに生命せいめいが生うまれたのは海うみなんだ
 ぼくらはいったん陸りくに上あがってから また海うみにもどったので
 その大切たいせつさがよくわかるんだけどね
 人間にんげんだって知しらないはずはないんだがなぁ・・・」



「ときどきぼくらはへんな船ふねにでくわすことがある
 それは海うみの中なかにずっともぐりっぱなしでいる船ふねでね
 気味きみの悪わるいスクリューのうなりをひびかせて
 うたぐり深ぶかそうに通とおりすぎていくのを何度なんどか見みたよ
 その船ふねは仲間なかまどうしで殺ころしあいをしているっていううわさを聞きいた
 大おおきさや形かたちが似にているせいで敵てきとまちがえられたのか
 まきぞえに殺ころされたクジラ仲間なかまもいる
 同おなじような船ふねが 海うみの底そこで立往生たちおうじょうしちゃうことがあるんだけど
 そうすると、船ふねのまわりには死しのかげがたちこめて
 どんな生いきものも近ちかよることができなくなるんだ・・」
ネコくんはテレビで見みた戦争せんそうの場面ばめんを思おもい起おこしました
それはきっと潜水艦せんすいかんという船ふねにちがいありません
たくさんの罪つみのない生いきものたちをまきこむ戦争せんそうは
ネコくんにもクジラさんにもさっぱり理解りかいできないことのひとつです
クジラさんなんて、けんかをなるべくさけるために
歌比うたくらべですませているというのに
人間にんげんってつくづくおかしな動物どうぶつだなあ..




クジラさんの声こえはだいぶ弱よわまってきたようです
「ああ、もうそろそろお別わかれになりそうだ
 これが運命うんめいならしかたがない、クジラの神かみさまが決きめたことだからね
 こんな網あみにからまって死しぬのはちょっぴりしゃくだけど・・」
ネコくんはそれを聞きいて悲かなしくなってきました
ここでクジラさんが死しんだら
ネコくんも海うみのまん中なかでおぼれ死しんでしまうでしょう
ネコくんの目めから大粒おおつぶの涙なみだがあふれだし、ほおヒゲの間あいだをポロポロと伝つたいました
「おやおや、そんなに泣ないたら体からだから水分すいぶんがなくなって日干ひぼしになってしまうよ」
ネコくんは少すこし笑顔えがおをとりもどして聞ききました
「クジラさんは悲かなしいときには泣なかないの?」
「ぼくらは水みずの中なかに住すんでいるから涙なみだは出でないね」
「そうか」
「まあ、心配しんぱいしなさんな
 ぼくが岸きしまで連つれていってあげるよ」
そういうと、クジラさんは最後さいごの力ちからをふりしぼって尾おビレをぐんとひとうちしました
ネコくんはふり落おとされないようにコブにしっかりしがみつきました
まわりの水みずがうずをまいて、白しろい泡あわをのみこんでいきます
クジラさんはかすかに見みえる陸地りくちの方角ほうがくへ体からだの向むきを変かえました
「さあ、あとは潮しおの流ながれにまかせておけば、波なみが岸きしまで運はこんでくれるよ」
あたりはもうまっ暗くらで、海うみと空そらとのさかいめもわからないほどです
ただ前方ぜんぽうにチラチラと見みえる町まちの灯あかりが、行いく先さきをしっかりとしめしていました




「ネコくんは陸りくのけものなんだから
 死しぬときもやっぱりおかの上うえでなきゃおかしいものね」
クジラさんは弱々よわよわしい声こえで笑わらいました
「クジラさんは陸りくの上うえで死しんでもいいんですか?」
「ああ、海うみのそばからはなれるのでなければね
 死しんだクジラが浜辺はまべに打うち上あげられるのはめずらしいことじゃない
 むかし、人間にんげんがまだ自然しぜんにはない力ちからを持もたなかったころ
 浜はまで死しんだクジラを見みつけると、みんなでお祭まつりをして
 人間にんげんの神かみさま、クジラの神かみさま、海うみの神かみさまに
 感謝かんしゃの気持きもちをこめて祈いのったものだ
 そして、ぼくたちのご先祖せんぞの肉にくは
 大切たいせつな食たべものとして村むらのみんなに配くばられ
 骨ほねや油あぶらも人ひとびとのためにいろいろと役やくに立った..」
クジラさんはそれきりだまりこんでしまいました
あんまり長ながくクジラさんがおしだまっているので
ネコくんはクジラさんがほんとうに死しんでしまったのかと思おもい
心配しんぱいになってたずねました
「クジラさ・・ん?」



すると、クジラさんはおもむろに口くちを開ひらきました
いままでの疑問ぎもんがふいに解とけて答こたえが見みつかったかのように
「思おもうに・・・
 思おもうに、いまの人間にんげんたちは 天てんからさずかった
 生いきものとしての自分じぶんたちにふさわしい力ちからや与あたえられた役目やくめに
 満足まんぞくできなくなって、より多おおくを求もとめるようになった
 もっと広ひろくて快適かいてきな住すみか
 もっと多おおくの、いままで口くちにすることのなかった食たべもの
 それらをもっと楽らくにたくさん手てに入いれる方法ほうほう・・・
 そうやって自分じぶんたちのことばかり考かんがえて自然しぜんに手てを加くわえていくうちに
 自分じぶんたちの神かみさまが ぼくらクジラをはじめ
 鳥とりやけものや魚さかなや虫むしや草くさや木きや、そのほかさまざまな生いきものたち
 そして、海うみや空そらや山やまや川かわや、ぼくらをとりまくすべてのものをつかさどる
 ほかの神かみさまとおたがいに相談そうだんしあい、取り決と きめをして
 この美うつくしいけどこわれやすい星ほしのバランスを
 うまく保たもつようにしているってことを 忘わすれちゃったんじゃないかな?
 人間にんげんたちが自分じぶんのことを信しんじなくなったものだから
 人間にんげんの神かみさまはたぶん、かれらを見みはなして
 どこかへかくれちゃったのかもしれない・・・」
ネコくんはクジラさんの話はなしにじっと耳みみをかたむけます



「ぼくは自分じぶんが食たべられてもかまわない
 それでほかの生いきものが生いきていけるんなら
 よろこんでこの身みをささげよう
 どんな生いきものだってそうしているんだもの
 そこで、きみにひとつおねがいがあるんだ
 もし、ぶじに陸りくにたどりついたなら
 ぼくの肉にくをひとくち食たべてくれたまえ
 そうすれば、ぼくはむだに死しんだんじゃなくて
 ぼくのよく知しっている友ともだちを生いかすのに
 役立やくだったことになるのだからね
 こんなにうれしいことはないよ」
ネコくんはそれを聞きいておどろきました
せっかくこうして知しり合って なかよしになった友ともだちを
死しんだからといって食たべてしまうなんてことが
どうしてできるでしょう?
たしかに前まえまでは クジラの肉にくを食たべてみたいと思おもっていましたけど
しかし、クジラさんは本気ほんきでいっているようでした




冷つめたい夜よるの潮風しおかぜに、ネコくんはこごえて毛皮けがわをふくらませました
「つかれたらおやすみ
 ぼくが子守歌こもりうたを歌うたってあげよう
 クジラの子こはたいていひとりっ子こだから、みんなあまえんぼうなんだ
 お母かあさんクジラは1年ねんくらいあかちゃんクジラにおちちをのませ
 海うみで生いきていくために必要ひつような知恵ちえをいろいろと教おしえる
 ぼくたちクジラは大おおきくなるまでに何年なんねんもかかるから、なかなか数かずがふえない
 だから、お母かあさんクジラはこどもをとても大事だいじに大事だいじに育そだてるんだ
 そして、こどもをねかしつけるときには歌うたを歌うたってあやしたのさ
 お母かあさんほどうまくはないけど、歌うたはいまでもしっかり覚おぼえている・・・
 ウォ~~ン・・キュルルクルゥ~・・・」
ネコくんは体からだをまるくして横よこになりました
こうして体からだをぴったりくっつけていると
クジラさんの心臓しんぞうが波なみのように規則正きそくただしいリズムで打うっているのが聞きこえます
そういえば、ネコくんも小ちいさいころお母かあさんに子守歌こもりうたを歌うたってもらったものでした
クジラさんの心臓しんぞうの音おとはネコくんたちに比くらべてずっとゆったりしていますが
ネコくんはまるでお母かあさんに抱だかれているときのようにくつろいだ気分きぶんでした
海うみの上うえの星ほしはよごれた空気くうきにじゃまされることなく
赤白黄色あかしろきいろの光ひかりを競きそいあっています
鏡かがみのようにないだ海うみの面おもてに
いくつかの明あかるい大おおきな星ほしが自分じぶんの姿すがたを映うつしています
ふたつの波なみの伴奏ばんそうで クジラさんの静しずかな子守歌こもりうたを聞ききながら
ネコくんはいつしか海うみのように深ふかい眠ねむりに落おちていきました





おやすみ、
やんちゃな子こクジラくん
きょうは1日にちどんなことが
あった?

銀色ぎんいろに光ひかる魚さかなたちの群むれに
頭あたまをつっこんだり
おひさまに向むかって思おもいきり
ジャンプしたり
ウミガメのおじさんを
からかったり
カツオとならんで泳およぎ比くらべしたり
ひょうきんもののイルカと
ふざけっこしたり

海うみの底そこの色いろとりどりの
生いきものたちをながめて
うっとりしたり・・・

ちっちゃなエビたちがパチパチとハサミを鳴ならす音おと
岸辺きしべに打うちよせる波なみのどこか
なつかしいひびき
お魚さかなたちのかすかなさえずり

はぐれクジラのこどくなつぶやき
あっちこっちのクジラ仲間なかまの
気きままなおしゃべり
海うみのはるかな深ふかみから
とどろいてくる
ぶきみな呼よび声ごえ・・・

海うみは大おおきな、大おおきな宝箱たからばこ
楽たのしいこと、おもしろいこと、
美うつくしいことであふれてる
ときにはちょっぴり
こわい目めにもあうけど
おそれずに耳みみをすませてごらん

ほら、すてきなふしぎたちが
呼よんでいるよ
生いきるってやっぱり
すばらしいこと
このはてしない世界せかいは全部ぜんぶ
きみのもの
あせらなくたって逃にげやしない
いつだってきみを待まっている

いつだってきみのそばにいる
だから
きょうはおやすみ
楽たのしみはあしたにとっておいで

おやすみ、ちっちゃくておっきな
わたしのやんちゃな子こクジラくん
生うまれながらの冒険家ぼうけんかくん・・・



ズズズ・・・
何なにかがこすれる音おとがして、ネコくんは目めを覚さましました
かれはあいかわらずクジラさんの黒くろい背中せなかの上うえに乗のっていましたが
まわりにはどこまでものたうつ波なみのかわりに
白しろい砂浜すなはまがまっすぐのびていました
空そらはうっすらと赤あかみがかり、日ひの出でが近ちかいことをつげています
「クジラさん、陸りくについたよ
 ありがとう、おかげでたすかりました」
しかし、クジラさんは返事へんじをしませんでした
いくらゆすっても(ネコくんの力ちからではピクリともしませんでしたが)
さけんでも
クジラさんの黒くろい体からだは岩いわのようにじっとしたまま動うごきません
かれはもうクジラであることをやめていたのです
もう二度にどと息いきもしなければ
力強ちからづよい泳およぎを見みせることも、美うつくしい歌うたを口くちずさむこともないのです
温あたたかかった血つめは冷つめたくなるばかり
その大おおきな体からだを形かたちづくっていた細胞さいぼうのひとつひとつが
いますべて死しにたえようとしていたのでした
ネコくんはだまって砂すなにまみれた大おおきななきがらのそばに立たちつくしました
たった1日にちでもかれがいっしょにすごした友ともだちの体からだが
まもなくくちはてて骨ほねとなり、もとの姿すがたをとどめなくなってしまうのは
たまらなく悲かなしくつらいことでした
ネコくんはクジラさんの体からだをほんの少すこしかじりとりました
涙なみだと塩水しおみずとで苦にがくしょっぱい味あじがしました




水平線すいへいせんにひとすじのまぶしいしんじゅ色いろの光ひかりが見みえてきました
それは見みる間まにふくれあがり、夜よるのやみを追おいはらっていきました
空そらの色いろが深ふかいぐんじょう色いろからむらさき、赤あか、そして昼ひるの見みなれた青あおへと
こくこくと移うつりかわっていくパノラマがくりひろげられました
そのとき、ネコくんは見みたのです
海うみから大おおきな大おおきなクジラが高たか
へまい上あがり
そのままどんどん天高てんたかくのぼっていくのを
まきちらされた水みずが、顔かおを出だしたばかりの朝日あさひを浴あびて
キラキラと虹色にじいろにかがやき、クジラの体からだを包つつみました
そのたとえようのない美うつくしさはネコくんの目めにやきついて
一生忘いっしょうわすれることはないでしょう
あたりがすっかり明あかるくなったころ、
クジラは空そらのかなたへ消きえていきました

クジラさんの体からだは たくさんの生いきものたちをつちかうために
土つちにかえり、海うみにかえっていきます
その一部いちぶは ネコくんの体からだの一部いちぶにもなりました
それではいったい、クジラさんのたましいは
どこへ行いったのでしょう?
海うみよりももっと広ひろくて深ふかい空そらの向むこうの世界せかいへ
旅立たびだっていったのでしょうか?
あるいはもしかしたら、氷こおりの浮うかぶはるか南みなみのクジラたちの楽園らくえんで
空そらから仲間なかまたちの幸しあわせそうな姿すがたをながめているのかもしれません
でも、ほんとうのところはネコくんにもわかりません..





なんとかぶじに住すみかの町まちへもどったネコくんは
それからというもの
缶詰かんづめのご飯はんばかり食たべるのをやめて
なるべく自分じぶんの力ちからでえものをとらえるようにしました
なにしろネコくんには爪つめと牙きばという
ネコの神かみさまからさずかったりっぱな狩かりの道具どうぐがあるのですから
それでもかれはときどき
いつかもう一度いちど、クジラさんたちに会あいに行いきたいと思おもうのです
でも、それはクジラを食たべたいからではなくて
ごうかいなジャンプを見みせてもらったり
きれいな歌声うたごえに耳みみをすませたいからです
そして、またいろんなお話はなしを聞きかせてもらえたらなあと思おもうのです

<おしまい>


Dirty Fishing" Emptying Oceans 



          


鯨類は約5000万年前海から陸に上がり、約3000万年前また海に戻り今の姿に形成した気の遠くなるような進化を遂げ今日まで生きてきたという。人類の歴史は40〜50万年と鯨の足元にも及ばない。
鯨類は何千万年もの間海で生活をして来た先住民であり生きた化石だ。
人間が陸で生活をしているのと同じで、海は海で生活をする生物の場。
そこには人と同じように家族の営み、教育、喜びや悲しみのドラマがあるのだがそれが見えないのは商品や食肉としか考えていないからだ。
幸い数年ごとに動物や自然を人間の手によって壊すべきではないと気付く人々が増えてきた。
野生動物は人間の資源ではなく自然環境をと共に守っていくものだ。
増えすぎたから間引くとか、魚を大量に食べるから漁業に差し支えると言うのはそれは人間のエゴである。
自然は自然の力で保たれていく、増え過ぎれば自然に減る。それは世の中に人間が現れるずっと以前から行われてきた。
鯨が海で魚を食べることは当たり前であり、人間は鯨から海の幸を分けてもらうという形こそが地球に住む生物の形だと思う。


鯨もイルカも人間と同じように長生きもしたい、生涯を全うしたいと思っている。
それはどんな生き物もそうだ。
人間が動物の命を奪い大切に感謝しながら食べようが骨や皮を無駄なく使おうが、それで許されると思うのは人間の自己満足である。どっちにしろ殺される事には変わりない。
殺される生き物は人間に食べて欲しくて生まれてきたわけではない。出来るなら生まれた場所で必死に生きて死にたいと思っているはずだ。
動物の命を糧として生きる人々は反論する際に必ず、"では家畜の命は奪っていいのか?"と聞いてくる。
出来れば殺すことはしたくはない。しかし家畜はどこで生まれるのか?
それは人間が育て増やしている動物なのだから人間が責任を持ちどうするべきかという問題は人間の手中にある。
家畜を殺して食べるのなら、せめて生まれてから死ぬまでの間自由に幸せに育て、死ぬときは恐怖や苦しみを与えない事が人間の家畜への責任である。
では中国韓国の犬や猫食はどうかと言うとこれらの動物は家畜として生まれたわけではない。遠い昔人間と共存するために人の手で作られたペットである。本来なら人を助けながら生きる動物だが現在はほとんど愛玩動物である。だからこれも食べたり増えすぎたから殺すべきではない。人間の作った生き物なのだから人間が保護する責任がある。
しかし野生生物は人間の手中にはない。彼等は自然の中で生きるように生まれてきた。自然の中で共存していない人間にとっては国境の向こうの生き物たちでなのである。

日本の人々は"クジラ肉は食文化である"、"肉食はどこの国にもあり、日本はたまたま鯨も食していたから"と理由にする。
それを妨害しようとする者は、"水銀が多量に含まれる"、"絶滅機種である"などお互いに様々な理由をつけて譲り合うことはない。
アメリカでは太地が漁をする度にニュースで報道される。
学校では環境保護、自然保護、動物保護の教育にザ・コーブを上映し生徒たちが日本は捕鯨国である事を知る。
親達は鯨の神秘的な美しさを子供達に教える。
今世界中の人々があの小さな漁村の太地を注目しているのだ。
誰が、どっちが野蛮だなどと言うことは全く意味がない。
日本はテクノロジーなどでは先進国だが、自然や動物保護への考え方についてはとても遅れをとっている。
動物が下等なもの、人間のために全てが存在するという誤った意識を持っている人々がまだ多い。
アナログからデジタル、ガソリンから電気へと時代が変わる様に、食文化も変わるべきである。
現在は遠い昔の狩猟時代ではないのだから、狩をして生きるのはわずかに残る狩猟民族だけで十分である。


     〜ケイコ・オールズ〜